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民間組織 01 国際環境NGO FoE ジャパン 野口栄一郎さん、35歳、男性

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インタビュー:黒川

書き起こし:海老原、深井

文章校正:山本、ご本人

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パート12.<ロシアでの活動から思うこと>

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黒川 何か嫌なこととかありました? 池に落ちたとか、川に落ちたとか、そういうことではなくて。

野口 なんでしょう、人間関係とかですか?

黒川 人間関係とか色々ありましたら。

野口 なんでしょう。嫌なことを受けるっていうのを、不思議としてないですね。ものすごい池には落ちてないですけど、寒かったり、蚊に刺されたり。あとね、人間でもみんながみんな、付き合いやすいわけでもなく。なんかね、思い出すのは、いいことばっかりですね。

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野口 で嫌っていうか、嫌じゃないけど、悔しいのは、むしろ日本に戻ってきて、やっぱり日本の人と話すと、「ロシア(人)って、みんな冷たいんでしょ」とか。

黒川 「マトリョーシカ」とか?

(注: マトリョーシカとは、ロシアの民芸品の人形。人形の中に、人形が入っている)

野口 そうそう。ロシアってところは、みんなマフィアなんでしょ、とか。あとそれから一年中寒くて、なんか自然なんか何にもないんでしょ、とか。あとね、それから何て言うんでしょうねー。あのね…。

黒川 日本人のロシア人に対する偏見とか。

野口 うーん、偏見というか…。

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黒川 ステレオタイプのロシア人像を押し付けられるってことですか。

野口 そうですね、ある年齢より上の人たちは、ロシアに対してネガティブな印象ありますよね。

黒川 そうですよね。

野口 あのー、20世紀の間にアメリカっていう国と、ロシアっていう国と、2つの大きい国がありましたけど、それは、20世紀後半だと思いますけど。どっちが悪い国でどっちが良い国だったかとか。どっちがどれだけ、どっちよりひどいことをしたかとか、えげつないことをしたか。人間としてやってはいけないことをやったかって、わかんないですよ。知れば知るほど。どっちもひどいことやってますし。いいこともどっちも。それぞれが行った、良いこともありますけど。

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野口 なんだけど、やっぱりなんかあのー、圧倒的にソ連、ロシアは怖い国、アメリカ(は)良い国っていう風に、僕の子どものころ、世の中(は)それだったと思うんですけど。その時代が終わったはずなのに、まだ引きずってるところがありますよね。なので、色んな新聞とか見比べたりしてますけど、某なんとか新聞とかは、ロシアについての暗いニュースとか、ネガティブなニュース出てきたら大きく取り上げるみたいな、そういう新聞とかあったりしてね。そういうむしろあのー、日本(に)戻ってきて悔しいな、とか。日本(に)戻ってきてですね。

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野口 あと希望は、日本の若い世代の人たちは、ソ連が崩壊したときに、多分4歳か5歳だったんですよね。今20歳の人たちは。その世代の人たちは、ロシアとかロシア人に対して悪いイメージ、ネガティブなイメージ、マイナスなイメージがあんまりないですね。最近は新聞をよく読んでる学生さんだったら、日本の漁船が拿捕(だほ)されたとか、それからあの、日本と直接関係ないですけど、元KGB(ソ連の秘密諜報部)のリトビネンコさんがね、イギリスで毒殺されたとかね。あーいうのはソビエト、あー怖いのかなーってイメージあるのかもしれないですけど。やっぱりなんかあの、(それでも若い世代には)別にロシアが暗い国、悪い国、冷たい国っていうのがすり込まれてないですから。例えばこのタイガの写真とか、ウデヘ族の話してもニュートラル。うん。

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黒川 冷戦があったことを知らない若い人もいるんでしょうかね。

野口 そうですね、やっぱり学校の教科書には書いてあるんでしょうけど。別に家に帰ったらお父さん、お母さんがソ連、「ロシアっていうのはね、悪い国なのよ」とかって、そんな話もしてないでしょう、きっと。

黒川 はい。

野口 だし、あのー、歴史の教科書見てるから事実としては、受験勉強して知ってるかも知れませんけど、自分の体験として、ソ連っていう国に対して、なんか怖いなーとか。あとそれから自分が大人になる前に、アメリカとソ連が、核ミサイルを打ち合って、日本巻き込まれて、で、みんな死んじゃうんじゃないかな…っていう、破滅、終末のイメージを心の中で思い描いた経験がないと思うんですよ。

黒川 うーん。

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野口 僕らありましたけどね、小学校のころに。1999年の「ノストラダムスの大予言」って、あれって、アメリカとソ連がいよいよ核ミサイル打ち合っちゃうっていう、それもノストラダムスに見えてたんじゃないかって。あとね、「北斗の拳」とかもね。

黒川 (笑)はい。

野口 女性の方はあまり読まなかったかもしれないですけど。あれも199X年、世界は核の炎に包まれたっていう。

(注: 「ノストラダムスの大予言」とは、1503年に生まれたフランス人の予言内容をまとめた書籍。第二次世界大戦などをほぼ正確に予言。1999年7月に人類が滅亡する、など。)

(注: 「北斗の拳」とは、原作・武論尊、作画・原哲夫による少年漫画。1980年代の少年ジャンプを代表する作品。核戦争後、暴力が支配する世界が舞台のアクション漫画。)

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野口 僕ら世代って、30(歳代)半ばの世代って、小学校のころ、「いつか核戦争でみんな死んじゃうんだ」っていう終末観みたいなものがありましたよ。

黒川 うーん。

野口 その暗い終末観の一端を担っていたのがソ連。

黒川 はい。

野口 でしたけどね。今の若い人たちは、ソ連、ロシアに対して暗い感情ないんじゃないかなーとか。

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野口 あともう一つ、悔しいというよりも残念だなーというのは、先住民族とか少数民族っていう人たちに対する捉え方かな。

黒川 うーん。

野口 あのー、ホントは僕、この言葉も嫌いなんですよ。嫌いっていうか、うーん。

黒川 ウデヘ族とか?

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野口 うーん、先住民族とか、少数民族とか。そうね、僕にとってはここの村の人たちは、先住民族とか少数民族とかじゃなく、「ヤコフさん」とか、そういう。

黒川 そうですよね。

野口 人間だし、友達だし、家族みたいなもんなんで、もう人間。なになにさんでいいと思うんですけども。ただまぁ、あのー、色々権利を守ったり、歴史を学んだりする上では先住民族とか、先住民族って言葉とか捉え方とかも必要なのかなって思います。昔、原住民って呼び方あったけど、あれはもうダメっていうね、そういう(風に)時代も変わって(きて)いるんでしょうけど。

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野口 なんかあの思うのは、あのねー、先住民族とか少数民族って呼ばれちゃってる人たちと会うと、実際に本物と会ってみると、ビックリしますよ。数は少ないけど、数こそ少ないけど、一人一人はものすごい強い人たちです。

黒川 うーん…。個性がってことじゃなくて、生きる力が強いってことですか。

野口 両方、個性もあるし、1700人しかない。もうね、日本人って1億3千万でしょ。1対1でね、何人かずつ、こうね、選手権みたいなことをやったらね、勝てないですよ、色んなことで、生きる力。

黒川 ふーん。

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野口 あとね、人間としての面白さ、魅力。なかなか勝てないです。

黒川 うーん。

野口 勝てる日本人もいるかもしれないですけど。まー、別に勝ち負けじゃないんですけど。あのねー、うーん、僕らが何か教えに行くんじゃないんです。行ってむしろ、教わることが多いのはこっちです。

黒川 うーん、うん、うん。

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野口 ま、あのこれ自然保護の話だとしたら、森の植物のこととか、それから生き物の習性とか、何月はどの花が咲くとかね。その花にミツバチが飛んで来るとかね。あのー、獣の習性とか。彼らはもう生業だから、獣を獲るためには、習性を知り尽くさなきゃなんない。何聞いてもね、よく知ってますね。

黒川 うん。

野口 そういう意味では、タイガの中歩いていたり、川で師匠みたいに見えることもあるんですけど。それ以外にもね、なんて言うんでしょう。僕ら行って、教えることよりも教えられることの方が多いですね。えー。

黒川 へー。

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野口 なので全然、僕らもともと草の根の雑草みたいな人間なんで、日本国(は)優秀なんで、日本民族(は)優秀なんで、行って色々教えてあげますって態度では、元々行ってないですけどね。何が言いたかったかっていうと、こういう先住民族、少数民族と言われる人たちの面白さ。あとこういう人たちと会ったら、うーん、俺らの方が、日本から来た日本人の僕らの方がね、まだまだ変われるっていうか。今まで限界だと思っていたところから、まだまだ先にいける可能性があるってことですね。そういう可能性に心を閉ざしちゃうっていうか、そのー、アンテナ(に)反応しない。

黒川 うーん。

野口 うーん、風潮って今、日本にあるような気がしているんですよ。というのは、すごい大事なことですけど。

黒川 うん。

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野口 お金持っているやつが強いとか。

黒川 うん。

野口 あとはあのー、セレブ思考とか。

黒川 うん。

野口 あのセレブの人たちの中にもいい人はいると思うんですよ、魅力的な人はもちろんいると思うんですけど。なんか今、ここの国は勝ち組、負け組とか言って。で、自分は勝ち組なんだろうか、負け組なんだろうか、とか。もうねー、ここに住んでる人たちはある意味、勝っても負けてもいないんですけど、面白いんです。活き活きしてるんですね。

黒川 うーん。

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野口 であのー、ここの人たちが、何より大事にしているのは、家族と友達ですね。

黒川 うーん。

野口 うん、一番大事なものはって聞かれて、家族と友達。であのー、空気がうまくて、鹿とか猪の肉が食えて。あのねー、うらやましい人たちなんですよ(笑)。

黒川 うん、なんか質素っていう一言ですまないんですよね。

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野口 そうですね。ただ単に質素っていうんじゃなくて、ある意味ここにいるのが贅沢なんですね、きっと。物はまだあんまりないですけどね。確かに冬は寒いですけどね。やっぱり寒いとか自然の厳しいところだと、かえって家族の結束とかが強まるんですかね。狩行って来る父ちゃん、家の中のことやる母ちゃん、それから薪割る子ども。みんな協力して、みんな力をあわせて、やっぱりこうみんな分担して生きていくことになるから。

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野口 だからあのー、昔『大草原の小さな家』ってあったけど。

黒川 あ、はい。

野口 あれはアメリカの開拓時代のドラマですけどね。あの時代の西部開拓とか、あそこの本当の歴史を研究している学者さんは、あのドラマは嘘ばっかりだって言うらしいんですけど。それはさておき、あのマイケル・ランドンさん。亡くなっちゃいましたけど、マイケル・ランドンさんがあの…。

黒川 よく覚えてますね。

(注:「大草原の小さな家」とは、1867年生まれのローラが書いた小説。1975年NHKで放映)

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野口 ローラとね。理想のパパ。頼もしくて頼りになる理想のパパ。それからこう、強くてやさしいお母さん、元気で生き生きした多感な子どもたちが…。お姐さんも。あのねー、あれアメリカ人が抱いた、アメリカの家族の理想像ですよね。日本なら「北の国から」みたいな、あーいうのかなって思うんですけど。あーいう家族が、ここ(では)普通なんですよ、村の中にいくつも(そうした家族があります)。それって、なんかねー、行って思うんですけど、だんだんね、この人たちがうらやましくなってきますね。

黒川 うーん…。

野口 ま、ここの人たちは、日本をうらやましいなって思ってるんですけどね。でもほら、一緒に活動すればいいんじゃないかなと思いますけどね。

(注:「北の国から」とは、1981年から放映された北海道富良野市が舞台のフジ系ドラマ)

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黒川 じゃ、野口さんは今、幸せですか。幸せって言葉も難しいけど。

野口 あー…。

黒川 やりたいことではなくて、やり残した…今、命が絶えても笑って死ねるっていう。

野口 うーん、結論を言うと多分笑うと思うんですけど。ただ、このビキン川を世界遺産にするのに、一番トントン拍子で行っても、あと3年くらいかかるんで。

黒川 それが終わるまで?

野口 うーん、あのー、あと3年は死んでも生きてやるっていう(笑)

黒川 何が何でも(笑)

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野口 ええ。でね、それでね、ここの猟師さん、ビギン川のウデヘ族の猟師さん。還暦の猟師さん。40年間毎年、夏も冬もタイガに行って、猪を仕留めて、で無事に村に帰ってきてる猟師さんに、秘訣は何ですかって。今まで狩に成功して、それから自分が怪我したり死んだりしないで、今まで無事に生きてこられた秘訣を教えてもらえませんかって聞いたらね。そしたらその猟師さんは、「欲望を持て」って言ったんですね。「生きたいっていう欲望を持て」って。「獣を取りたいなー」っていう思いを大事にしろって。あとー生きて村に帰りたいなって、食い物村に持って帰りたいなっていう、その欲望、願望を大事にしろって。

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黒川 今、日本のそのー若い子たちは欲望とエゴを履き違えてるところがある気がするんですけど。それとはまた違う、違って、生きることに対しての欲望ですか。

野口 あのー、先に結論を言っちゃうと、「自分が自分の欲望を大事にしてたら、他の人が持ってるその人の欲望も大事にしてやれると思う」んですけどね。

黒川 うーん。

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野口 まー、結論を先に言っちゃうとね。そうであってほしいです。だから理想の日本、未来の日本っていうか、理想の日本は、一人ひとりの人間が生きて、これやりたいっていう強い欲望を持ちつつ、欲望を持って、毎日朝、目が覚めたら、よーし今日はこれやったるわーっていうね。あとは夜寝るときは、明日朝起きたらこれやるーっていう欲望を持って生きつつ、でもあのー、多分、自分の隣にいる、電車の隣のつり革を握ってる人もね、多分なんかやりたいこととかあるんだろうなーと思って、それを大事にしてあげる。

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野口 どうしてもぶつかっちゃうときには、喧嘩になっちゃうのかも知れないですけどね。あのー自分以外の人もなんかやりたいと思って生きてるんだなってなるといいと思いますけどね。それよりエゴはね。エゴはね、エゴというもの自体は僕は持ったらいいと思うんですけどね。ただ、エゴをもったら同じくらいやさしさも持たないとダメ。

黒川 うん。

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野口 だと思いますね。エゴはねー、多分、今、日本っていう国は、一方の両極端。こっちの方でみんな強調して押し殺してっていうところから、こう一気に逆の、みんな自分のエゴを出して。でもう、隣のやつが何してようと、知るかー、みたいな。なんか一気にこう。日本人って、右の端から左の端に極端に振れるんじゃないかなと思うんで。その違う世界観と上手くコミュニケーションができないんじゃないかと思うんですけど。でもねー、あのー、今の時代にこう、抜け落ちてるん(か)なーっていうのか、落っことしちゃったんじゃないかなーって思うのは「やさしさ」ですかね。

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野口 弱肉強食の社会になっちゃうんなら、みんなその社会で生きていくしかないんですけど、だけど勝ち組はさらに金持ちになって、負け組みはさらに…。でもねー、やさしさを持ってない。なんかね、上手く言えないんですけどね。あのー、だから自分がエゴを出すのはいい、この世の中に勝負とか競争とかあるのはいいと思うんですよ。まったく競争をなくせとは、思わないんですけど。あと、今度、こう、勝てない人とか、負けちゃった人とかを、ただ憐れんだり、あのー、なんて言うんですか、優越感にひたったり、憐れみの対象とするのが、よくないと言うか、なんかいやらしいと思うんですけど。まー僕自身もどういう形で示していいのか、出していいのかわからないところもありますけど。

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野口 エゴ出して勝った負けたやるんだったら、その分同じくらいやさしさも持ってない(と)なーっていう。うん。なんかすごい、あのー、一般的な話っていうか、上手く言葉で言えないんですけど、うん。ホントにあのー、強くてやさしいのがいいです(笑)

黒川 (笑)じゃー、これから国際協力とか、難民支援活動、環境保護対策とか色々とありますけど、そういうのを目指す、中学、高校生、大学…。中学、高校くらいだとまだちょっとブレるかもしれないですけど。大学生で進路を決めたいといって、色々な海外のNGOにインターンで行って、帰ってきてイギリスで平和学を学んで、留学をしてっていう人たちには、是非そのやさしさを忘れるなと。

野口 そうですね、やさしさを、えー。

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